離婚等請求控訴事件

東京高等裁判所

平成28年(ネ)第2453号

平成29年01月26日

控訴人 X
同訴訟代理人弁護士 別紙一控訴代理人目録記載のとおり
被控訴人 Y
同訴訟代理人弁護士 喜田村洋一
上野晃
杉山程彦
横粂勝仁
谷英樹

主文

  • 一 原判決主文二項から六項までを次のとおり変更する。
    • (1) 控訴人と被控訴人との間の長女Aの親権者を控訴人と定める。
    • (2) 被控訴人は、控訴人に対し、長女の養育費として、本判決確定の日から同人が成年に達する日まで、一か月五万円の割合による金員を毎月末日限り支払え。
    • (3) 控訴人と被控訴人との間の別紙二年金分割のための情報通知書≪略≫記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を〇・五と定める。
    • (4) 控訴人のその余の請求を棄却する。
  • 二 訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一 控訴の趣旨

  • 一 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
  • 二 主文一項(1)と同旨
  • 三 被控訴人は、控訴人に対し、長女の養育費として、本判決確定の日から同人が成年に達する月まで、一か月六万円の割合による金員を毎月末日限り支払え。
  • 四 被控訴人は、控訴人に対し、五〇〇万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
  • 五 (年金分割の申立ての交換的変更)
    主文一項(3)と同旨

第二 事案の概要

  • 一 控訴人(妻)と被控訴人(夫)は平成××年××月××日に婚姻した夫婦であり、両者の間には長女Aがいる。
    本件は、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人の控訴人に対する身体的・経済的・精神的・性的暴力により、控訴人と被控訴人の婚姻関係は破綻したとして、被控訴人に対し、離婚、長女の親権者を控訴人と定めること、養育費月額一〇万円の支払、慰謝料五〇〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払並びに年金分割を求めた事案である。
    被控訴人は、離婚原因を争い、予備的に、控訴人の離婚請求が認められる場合には、長女の親権者を被控訴人と定めるべきであり、その際の附帯処分として、長女を被控訴人に引き渡すこと及び控訴人と長女との面会交流の時期、方法等を定めることを求めた。
  • 二 原審は、控訴人の離婚請求を認容し、控訴人は、被控訴人の了解を得ることなく、長女を連れ出し、以来、長女を監護し、その間、長女と被控訴人との面会交流には合計で六回程度しか応じておらず、今後も一定の条件の下での面会交流を月一回程度の頻度とすることを希望しているのに対し、被控訴人は、長女が連れ出された直後から、長女を取り戻すべく、数々の法的手段に訴えてきたが、いずれも奏功せず、今日まで長女との生活を切望しながら果たせずに来ており、それが実現した場合には、整った環境で、周到に監護する計画と意欲を持っており、長女と控訴人との交流については、緊密な親子関係の継続を重視して、年間一〇〇日に及ぶ面会交流の計画を提示しているなどとして、長女の親権者を被控訴人と定め、控訴人に対し長女を被控訴人に引き渡すよう命じ、被控訴人は控訴人に対し原判決別紙「面会交流の要領」記載のとおりの内容で長女と面会交流をすることを許さなければならないとし、控訴人と被控訴人との間の原判決別紙年金分割のための情報通知書記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を〇・五と定め、控訴人のその余の請求を棄却した。
    これに対し、控訴人が控訴した。控訴人は、当審において、養育費の金額を月額六万円に引き下げ、年金分割のための情報通知書を原判決別紙のものから本判決別紙二≪略≫のものに変更した。
  • 三 事案の概要及び当事者の主張は、当審における控訴人の主張を後記四のとおり、当審における被控訴人の主張を後記五のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第二に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、二頁二一行目の「婚姻関係は」の次に「、控訴人と被控訴人が別居した平成二二年五月六日、そうでなくても遅くとも被控訴人が控訴人の実家に押し掛けた平成二三年三月二一日、」を加える。
  • 四 当審における控訴人の主張
    • (1) 原審は、プライドの高い控訴人と被控訴人が衝突した末別居に至り、相互不信を募らせたという極めて表面的な認定をして、控訴人の慰謝料請求を棄却したが、不当である。
      婚姻関係が破綻した原因は、日常生活における被控訴人の強烈な支配欲と独善的、強圧的な姿勢から発せられる暴言と脅迫的言動の集積にほかならない。このような日常生活の連鎖の結果、控訴人は自己のアイデンティティーと気力を削られていき疲弊した。すなわち、被控訴人は、控訴人と同居開始後、夫婦二人分の食費等を含む生活費を負担せず、平成一九年八月頃、控訴人の顔の五cmくらいのところに刃渡り約一〇cmのはさみを近づけ、控訴人に相談することなく地方勤務を希望して平成二一年四月から大阪府××市に出向し、単身赴任を希望する控訴人の意向に応じなかった。また、被控訴人は、控訴人に性交渉を強要し、平成二二年五月一日には、「離婚給付等契約公正証書」と題する書面を一方的に作成して、控訴人に署名を迫るなどした。さらに、控訴人は、平成二二年五月一六日から同年九月二六日までの間、八回にわたり被控訴人と長女との面会交流をさせたが、被控訴人は、面会交流の際に撮影した長女の画像をマスメディアに提供し、同月八日、離婚後片親と会えなくなる子供の現状を特集したテレビ番組の中で、目の部分にぼかしが入っていたものの長女の画像が全国放送された。なお、被控訴人は、同月一一日の面会交流の予定日にマスメディアを同席させる旨一方的に述べてきたため、控訴人は、被控訴人と長女との面会交流は当面制限せざるを得ないと判断した。
    • (2) 原審は、長女の親権者を被控訴人と定めたが、不当である。長女出生後現在に至るまで長女を監護養育してきたのは控訴人であって、同居中の時期にあっても被控訴人は長女の監護養育にほとんど関与していない。長女は、現在、安定した監護環境の下で学校生活を送っており、このような生活環境と人間関係を根こそぎ変更させてまで、被控訴人を親権者と定めることは、子の福祉に反する。被控訴人の行動には、子に対する親としての深い愛情や愛着、子の生活そのものを保護していこうとする親としての適格性に疑念があるといわざるを得ない。原審は、控訴人と被控訴人の夫婦の実態や事実の経過を踏まえず、被控訴人が、自身が親権者と定められれば控訴人と長女との面会交流を年間約一〇〇日認めるとの書面を提出したのみで、その現実性、父母間を高頻度で行き来する八歳の長女への影響を考慮せず、控訴人が提案する被控訴人と長女との面会交流の回数が少ないことをもって、被控訴人を長女の親権者と定めたものであって、現実に生きている長女の福祉という観点に立たず、面会交流をさせる回数のみから親権者の適格性を判断するという誤りを犯している。
  • 五 当審における被控訴人の主張
    • (1) 控訴人は、慰謝料の発生原因事実として、被控訴人の控訴人に対する身体的・経済的・精神的・性的暴力をるる主張するが、被控訴人を誹謗中傷するにすぎず、これを裏付ける証拠は、控訴人の供述以外何一つ存在しないのであり、控訴人の供述も信用性がない。
      控訴人は、マスメディアが長女の写真を放映したことが面会交流を拒絶した理由であるというが、その後も平成二二年九月二六日に面会交流を行っているのであり、控訴人は、原審における本人尋問で、放映のみが理由ではないと言葉を濁している。
    • (2) 原審は、長女の親権者を被控訴人と定めたが、正当な判断である。
      被控訴人は、原判決別紙共同養育計画案に基づき、被控訴人が親権者と定められれば、控訴人に長女との面会交流を年間一〇〇日程度認めることとし、休日・祝祭日については、公平に、被控訴人と控訴人が半分ずつ養育を担当する旨具体的に定めている。これにより、長女は、最低でも、二週間に一度は控訴人やその親族に会うことは可能であり、しかも、毎日、電話で連絡を取り合うことも認められているのである。これは、長女が被控訴人に引き渡された後も、従来の人間関係や生活関係を維持することをできる限り認めようとするものであり、六年前、控訴人が長女を一方的に自宅から連れ去り、それ以降、長女と被控訴人や被控訴人の両親その他の親戚、さらには、保育園や地域の友人たちとの関係を一切断ち切ったやり方とは全く異なるものである。したがって、長女は、引っ越しや転校に伴い、様々な変化が生じることになるが、八歳になるまでに構築してきた人間関係、生活関係に根底から変更を迫るというような事態が生じるおそれはない。

第三 当裁判所の判断

  • 一 当裁判所は、控訴人と被控訴人との離婚に伴い、長女の親権者を控訴人と定め、被控訴人に対し長女の養育費として本判決確定の日から長女が成年に達する日まで一か月五万円の割合による金員を毎月末日限り支払うよう命じ、控訴人と被控訴人との間の別紙二年金分割のための情報通知書≪略≫記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を〇・五と定めることが相当であるが、控訴人のその余の請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由のうち、認定事実については、次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第三の一に記載のとおりであるから、これを引用し、その余の点は後記二以下のとおりである。
    • (1) ≪略≫
    • (2) 四頁三行目末尾に「なお、控訴人は、Wの復職先を確保できず、平成二二年一月頃、Wを正式に退職した。」を加える。
    • (3) 五頁一三行目の「同年六月六日」の次に「及び同月二〇日」を加える。
    • (4) 同頁一六行目の「実施された」を「実施され、同月二四日、××市内で実施された」と改める。
    • (5) 同頁二一行目の「提供した」の次に「面会交流時の」を加える。
    • (6) 六頁一一行目の「二度にわたって」から一二行目末尾までを「子の監護者の変更及び子の引渡しの家事審判を千葉家庭裁判所松戸支部に申し立てたが、同支部は被控訴人の申立てをいずれも却下する審判をし、同審判はその後確定した。」と改める。
    • (7) 七頁六行目の「する予定でいる」を「している」と改める。
  • 二 慰謝料請求について
    • (1) 上記一のとおり補正の上引用した原判決の認定事実によれば、平成二一年頃から控訴人と被控訴人の婚姻関係は険悪な状態となっており、平成二二年五月一日、控訴人と被控訴人との激しいけんかにより、警察官を呼ぶという騒ぎとなり、その夜、被控訴人が、控訴人に対し、離婚すること等を内容とする「離婚給付等契約公正証書」の原案を示し、同月六日、控訴人が長女を連れて実家に帰って別居するに至り、その後控訴人と被控訴人との関係は改善されていないのであるから、控訴人と被控訴人との婚姻関係は、同日破綻したものと認めるのが相当である。
    • (2) そして、上記認定事実と証拠≪略≫及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、被控訴人が支配的な人物であると受け止めており、被控訴人のせいで学生時代からの夢であったWでの国際協力の仕事を断念せざるを得なかったとの思いが強く、他方、被控訴人は、控訴人が被控訴人との家庭や子よりも自分のキャリアアップを優先させているとの思いが強く、また、幼い長女を開発途上国に連れて行くことにはどうしても承服することができなかったのであり、このような控訴人と被控訴人との対立が激化し、両者は別居に至りその婚姻関係が破綻したと認められるところである。
    • (3) 控訴人は、控訴人と被控訴人が同居を開始した平成××年一二月から約半年間、控訴人が無収入となったにもかかわらず、被控訴人が生活費を負担せず、控訴人は自身の貯金を取り崩して生活費に充てた旨主張する。
      控訴人は、陳述書及び原審における本人尋問で、これに沿う供述をするが、これを裏付ける通帳や金融機関の取引履歴等はなく、上記供述のみで直ちに被控訴人が約半年間生活費を一切負担しなかったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
    • (4) 控訴人は、被控訴人が、平成一九年八月頃、控訴人の顔の五cmくらいのところに刃渡り約一〇cmのはさみを近づけたと主張する。
      控訴人は、陳述書及び原審における本人尋問で、これに沿う供述をするが、控訴人作成の平成二二年六月三〇日付け「慰謝料請求の根拠」と題する書面では、被控訴人の個々の行為を指摘しているものの、上記はさみの件は全く触れられていないので、上記供述のみで直ちに被控訴人が控訴人の顔にはさみを近づけたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
    • (5) 控訴人は、被控訴人が、平成二二年五月一日、「離婚給付等契約公正証書」と題する書面を一方的に作成して、控訴人に署名を迫ったと主張し、控訴人の陳述書にはこれに沿う部分がある。
      しかし、上記書面は、被控訴人も離婚を前提に行動しており、したがって、婚姻関係が破綻に瀕していたことを示すものであって、破綻の原因であるとはいえないし、そもそも、この書面は、公正証書の原案であって、署名欄はなく、被控訴人が控訴人に対し署名を迫ったとは考え難い。
    • (6) その他、控訴人が平成二二年五月六日までにあったと主張する事実、すなわち、被控訴人が注文したクリスマスの食材をむだにしないために控訴人の帰国を一日遅らせることに反対したこと、控訴人がつわりのため実家に戻る際に持ち出した現金につき、被控訴人が、犯罪行為だ、離婚だなどと述べて控訴人を責め立てたこと、控訴人がW職員に復職できなかったことにつき、被控訴人が控訴人の人格が悪いからであるなどと述べたこと、被控訴人が、控訴人に性交渉を強要し、控訴人が第二子を流産した際に控訴人の心情を害する発言をしたこと、控訴人の祖母が危篤となったことから大学院から自宅に戻るのを遅らせたところ、被控訴人が生活費を入金している口座のキャッシュカードを使用できないようにしたことなどについても、これに沿う控訴人の供述はあるものの、確たる裏付けがなく、直ちにこれらを認めることはできない。
    • (7) そして、他に控訴人と被控訴人の婚姻関係の破綻の原因が専ら被控訴人だけにあったと認めるに足りる証拠はないから、控訴人の慰謝料請求は理由がない。
  • 三 親権者の指定について
    • (1) 父母が裁判上の離婚をするときは、裁判所は、父母の一方を親権者と定めることとされている(民法八一九条二項)。この場合には、未成年者の親権者を定めるという事柄の性質と民法七六六条一項、七七一条及び八一九条六項の趣旨に鑑み、当該事案の具体的な事実関係に即して、これまでの子の監護養育状況、子の現状や父母との関係、父母それぞれの監護能力や監護環境、監護に対する意欲、子の意思(家事事件手続法六五条、人事訴訟法三二条四項参照)その他の子の健全な成育に関する事情を総合的に考慮して、子の利益の観点から父母の一方を親権者に定めるべきものであると解するのが相当である。父母それぞれにつき、離婚後親権者となった場合に、どの程度の頻度でどのような態様により相手方に子との面会交流を認める意向を有しているかは、親権者を定めるに当たり総合的に考慮すべき事情の一つであるが、父母の離婚後の非監護親との面会交流だけで子の健全な成育や子の利益が確保されるわけではないから、父母の面会交流についての意向だけで親権者を定めることは相当でなく、また、父母の面会交流についての意向が他の諸事情より重要性が高いともいえない。
    • (2) このような観点から、上記認定事実に基づいて本件をみると、まず、これまでの長女の監護養育状況等については、長女の出生時、控訴人は専業主婦であって、長女の主たる監護者は控訴人であったと認められ、控訴人は、平成二〇年一〇月から大学院に通うようになったものの、被控訴人は公務員として忙しく稼働していたもので、控訴人が主たる監護者であることに変わりはなかった。控訴人は、平成二一年四月から平成二二年三月頃までの間、大阪府から△△に所在する大学院に通学する際には長女を同行させ、大学院のキャンパス内にある保育所や控訴人の実家に長女を預けていたが、同月頃から同年五月六日までの間、控訴人が大学院に通学する際、被控訴人が長女を監護養育し、保育園の送り迎えや、ベビーシッターの利用などをするようになったが、これは、短期間のものであった。そして、控訴人は、同日に被控訴人と別居後も一貫して長女を監護養育しているところ、長女は、控訴人の下で安定した生活をしており、健康で順調に成育し、控訴人との母子関係に特段の問題はなく、通学している小学校での学校生活にも適応していることが認められる。
    • (3) 父母の監護能力等については、控訴人も被控訴人も長女に深い愛情を有しその監護養育に強い意欲を示している。控訴人も被控訴人も、有職者であり相応の収入があるところ、いずれも、勤務時間の融通が利く立場にあり、長女の監護養育につきそれぞれの両親の支援を受けることができ、長女の監護養育の観点からみた住宅環境も控訴人と被控訴人とで決定的な差はない。なお、控訴人と被控訴人との別居前における長女と被控訴人との父子関係は、良好であった。
    • (4) 子の意思については、長女は、平成二八年(当時小学校三年生)、控訴人と一緒に暮らしたいとの意向を示した。長女は、控訴人と被控訴人との別居後、一貫して控訴人と共に暮らしているから、長女の上記意向には控訴人の影響が及んでいるものと推認されるが、それでも今後も控訴人と一緒に暮らしたいということが長女の意思に反するものであることをうかがわせる事情は見当たらない。
    • (5) 被控訴人は、自分が親権者に定められた場合には、控訴人と長女との面会交流を年間一〇〇日程度認める用意があるから、被控訴人を親権者に定めるべきであると主張する。
      一般に、父母の離婚後も非監護親と子との間に円満な親子関係を形成・維持することは子の利益に合致することであり、面会交流はその有力な手段である。しかし、親権者を定めるに当たり、非監護親との面会交流に関する事情は、唯一の判断基準ではなく、他の諸事情よりも重要性が高い事情でもないことは、上記説示のとおりである。そして、控訴人宅と被控訴人宅とは片道二時間半程度離れた距離関係にあり、現在小学校三年生の長女が年間一〇〇日の面会交流のたびに被控訴人宅と控訴人宅とを往復するとすれば、身体への負担のほか、学校行事への参加、学校や近所の友達との交流等にも支障が生ずるおそれがあり、必ずしも長女の健全な成育にとって利益になるとは限らない。他方、控訴人は、自分が親権者に定められた場合にも、被控訴人と長女との面会交流自体は否定していないが、その回数は当面月一回程度を想定している。しかし、当初はこの程度の頻度で面会交流を再開することが長女の健全な成育にとって不十分であり長女の利益を害すると認めるに足りる証拠はない。
      なお、控訴人と被控訴人とが平成二二年五月一日に激しいけんかをした際、その様子を見ていた長女は「おしまい」「おしまい」と何度も言っていたことからみて、長女にとっては、非監護親との面会交流だけではなく、離婚後の父母(控訴人と被控訴人)が少しでも関係を改善し仲が悪くなくなることも、その心の安定や健全な成育のために重要なことであると推認されるところである。
    • (6) 以上の諸事情のほか、長女の現在の監護養育状況にその健全な成育上大きな問題はなく、長女の利益の観点からみて長女に転居及び転校をさせて現在の監護養育環境を変更しなければならないような必要性があるとの事情は見当たらないことも総合的に勘案し、長女の利益を最も優先して考慮すれば、長女の親権者は控訴人と定めるのが相当である。
      なお、控訴人は、被控訴人との別居に際し長女を連れて行ったところ、このことが被控訴人の意に反するものであったことは明らかである。
      しかしながら、控訴人が長女を連れて被控訴人と別居した平成二二年五月六日当時、長女は満二歳四か月であり、業務で多忙な被控訴人に長女の監護を委ねることは困難であったと認められるし、その前の時期、控訴人と被控訴人の婚姻関係も険悪で破綻に瀕していたものであるから、長女の今後の監護についてあらかじめ協議することも困難であったと認められる。そして、控訴人は、同月一五日から同年九月二六日までの間、八回にわたり被控訴人と長女との面会交流の場を設け、その後、平成二三年三月二一日までの間、被控訴人と長女との電話による交流もさせてきた。控訴人は、平成二二年九月二六日の後は、被控訴人に長女との面会交流をさせなかったが、これは、同月八日、被控訴人が、控訴人に対し、長女と被控訴人がテレビ番組××で放映される旨、他のマスメディア関係者もこの問題を取り上げる旨等を記載したメールを送り、実際に同日、被控訴人がマスメディアに提供した面会交流時の長女の映像が、目の部分にぼかしが入れられていたものの、放映され、控訴人がこれに衝撃を受けたことによるものである(なお、控訴人は、マスメディアの取材や被控訴人による長女の撮影がないことを条件として、同月二六日の面会交流に応じたものである。)。
      したがって、控訴人が別居に当たり幼い長女を放置せずに連れて行ったことやその後の面会交流についての控訴人の対応をもって、長女の利益の観点からみて、控訴人が親権者にふさわしくないとは認め難い。また、被控訴人は、控訴人が親権者に定められたら長女を外国に連れて行くと主張するが、控訴人が再度W等で国際協力や開発途上国関連の仕事に就くとの蓋然性が高いとの証拠はない。
      また、控訴人と被控訴人とは面会交流の在り方について考え方を大きく異にしているが、今後の被控訴人と長女との面会交流の具体的な内容については、控訴人と被控訴人との協議が整わないときは、家庭裁判所で定められるべきものであることはいうまでもない。
  • 四 養育費について
    被控訴人の平成二七年の収入のうち、○○から支給されたものが六六七万六五八九円、××から支給されたものが一五六万三五六四円であり、合計は八二四万〇一五三円である。これに対し、控訴人の平成二七年の収入は九五〇万七四五〇円である。
    これを標準算定表(判例タイムズ一一一一号二八五頁以下)に当てはめると、養育費は月額四万ないし六万円となることから、諸般の事情を考慮し、被控訴人が負担すべき養育費は月額五万円とするのが相当である。支払期間は、本判決確定の日から長女が成年に達する日までとする。
  • 五 年金分割について
    年金分割は、最新のものである別紙二年金分割のための情報通知書≪略≫記載の情報に基づいて行うのが相当であり、これに係る年金分割について請求すべき按分割合を〇・五と定めることとする。

第四 結論

 以上によれば、長女の親権者を控訴人と定め、被控訴人に対し長女の養育費として本判決確定の日から長女が成年に達する日まで一か月五万円の割合による金員を毎月末日限り控訴人に支払うよう命じ、控訴人と被控訴人との間の別紙二年金分割のための情報通知書≪略≫記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を〇・五と定め、控訴人のその余の請求は理由がないから棄却すべきである。よって、原判決は一部相当でないから、これを変更することとして、主文のとおり判決する(なお、被控訴人は、長女の引渡し及び控訴人と長女との面会交流の内容を定めるよう申し立てているが、これは、被控訴人が長女の親権者に定められることを前提とするものであるから、判断を要しない。)。

第7民事部

 (裁判長裁判官 菊池洋一 裁判官 佐久間政和 裁判官鈴木正紀は、転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 菊池洋一)

別紙一 控訴代理人目録

蒲田孝代
萩原得誉
福富美穂子
齋藤雅子
宗みなえ
長浜有平
藤吉彬
原康樹
清田乃り子
田中順子
渥美雅子
宮腰直子
友松千賀
本橋瞳美
石田志寿
大石聡子
本田正男
湯山薫
坂下裕一
海老原夕美
黒田典子
斉藤秀樹
川本雄弥
原崇人
安田まり子
𡈽田清子
浅田登美子
浜田薫
浜田脩
黒田昌宏
広瀬めぐみ

別紙二 年金分割のための情報通知書≪略≫

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