子の監議に関する処分申立事件

大阪家庭裁判所

平成5年(家)433号

平成5年12月22日

 申立人 甲野太郎

 相手方 乙山花子

 未成年者 甲野なつ 外1名

主文

 本件申立を却下する。

理由

【1】 申立の趣旨

 「相手方は申立人に対し、申立人が未成年者らに面接交渉すること(電話による対語・物の授受を含む)につき協議実施しなければならない。」旨の審判を求める。

【2】 記録により認められる事実

 一件記録によれば、次の各事実が認められる。

  • 1 申立人には再度の離婚歴がある。最初の妻丙春子との間には2人の子があるがすでに成人している。二人目の妻甲野夏子との間には3人の未成年の子があり、その親権者はいずれも母になっている。
  • 2 申立人と相手方の交際は、申立人が前妻夏子との婚姻中に始まり、その当時相手方は○○市内で美容院を経営していた。  昭和63年、相手方が申立人の住居に住み込んで同棲するようになり、申立人は平成元年5月12日夏子と協議離婚した。
  • 3 申立人と相手方は、平成元年6月13日婚姻し、大阪で共同生活した。同年7月1日長女なつが、平成3年5月5日長男一郎(以下この二人を合わせて「未成年者ら」という。)が生まれた。
  • 4 相手方は、平成3年12月8日未成年者らを伴って両親が居住する現住所に転居し、申立人と別居した。  その原因について、相手方は、申立人が極端に自己中心的・暴力的で、酒癖が悪い旨主張し、他方申立人は、相手方に暴力を振るった事実は認めながらも、相手方の酒癖も悪く、ヒステリーで悪賢い旨主張する。
  • 5 申立人は、平成4年3月29日相手方のもとから未成年者らを連れだし(この点について、申立人は相手方との合意に基づくものである旨主張し、相手方は申立人が無断で連れだした旨主張する。)、○○保育園に保育を預託した。
  • 6 申立人と相手方は、平成4年6月11日未成年者らの親権者を申立人父と定めて協議離婚した(但し、相手方から離婚無効確認請求訴訟が提起されており、現在大阪地方裁判所に係属中である。)。
     申立人は、○○児童相談所の紹介でなつを養護施設「○○園」に、一郎を○○乳児院に預託した。
  • 7 その後、相手方が申立てた人身保護請求事件について、平成4年9月17日大阪地方裁判所において、申立人が相手方に未成年者らを引き渡す旨の合意が成立し、申立人は右合意に基づき未成年者らを相手方に引き渡した。
  • 8 申立人は、現住所に単身居住し、架橋工事の現場監督として働いている。収入・負債など経済状態は明らかではないが、先妻との間の未成年者の子らの養育費を負担しているため、金銭的余裕に乏しいと推測される(ただし、相手方は、申立人が家庭裁判所の審判に反し養育費を支払っていない旨述べている。)。
  • 9 相手方は離婚後美容院に勤めていたが、平成5年夏退職し、現在は保険外交員をしており、その収入と児童扶養手当とで何とか自活している。健康状態は良好である。
  • 10 未成年者らは現在相手方と同居し、その監護下にある。二人とも心身の健康状態は良好であり、相手方によくなついており、保育所での保育にも適応していて、総じてその生活状況には未成年者本人らの福祉を害する特段の事情が認められない。
  • 11 申立人は、将来未成年者らを引き取って養育したいと考えているが、当面未成年者らとの面接交渉の機会を保障することを希望し、一郎が4歳になれば未成年者らだけ空路来阪させればよいとしている。相手方に対し未成年者らの養育費を支払うことは拒否している。
  • 12 相手方は、未成年者らに対して、申立人は遠方に行ったとだけ告げている。相手方としては、将来未成年者らが成長してみずからの意思で申立人に会うことは妨げないが、当面は未成年者らの情緒の安定を保つため、申立人が未成年者らに面接交渉することに消極的である。

【3】 当裁判所の判断

  • 1 非監護者である親がその子に面接交渉する権利の法的性質については、親の自然権説、親の監護に関する権利説、子の権利説など種々の見解が見られる。
     申立人の主張は、これを全体的に検討すると、申立人が未成年者らの父であり、かつ単独親権者である以上、当然に未成年者らに対する面接交渉権を有する旨の見解に基づくようである。
     しかし、当裁判所は、現代親子法の基本的理念が「子のための親権」という思想に立脚する以上、子の福祉を無視して、単に親または親権者であるからというだけで当然に面接交渉権を有する旨の見解には同調することはできない。
     いかなる子どもも、個人として尊重され、平和的文化国家の有用な構成員として、人格の完成をめざし、心身の健全な発達を求める基本的人権が保障されねばならない(憲法第26条第1項、教育基本法第1条)。すなわち、子は民法上親の権利の客体である以前に、憲法上の権判主体であることが看過されてはならないのである。
     このような精神に照らせば、面接交渉権の性質は、子の監護義務を全うするために親に認められる権利である側面を有する一方、人格の円満な発達に不可欠な両親の愛育の享受を求める子の権利としての性質をも有するものというべきである。
  • 2 本件についてこれを見ると、現在未成年者らは相手方と同居してその監護養育を受けており、その生活状況には特に未成年者らの福祉に反する問題は認められない。
     そして上記に述べた面接交渉権の性質に加うるに、未成年者らの年齢、申立人の離婚歴や相手方との別居・離婚に至った経過、申立人および相手方の生活状況、現在申立人と相手方との間で離婚無効訴訟が係属中であることその他諸般の事情を考慮すると、今直ちに申立人が未成年者らと面接交渉すること(電話による対話・物品の授受を含む。)を認めるのはやや時期尚早であり、藉すにしばらく時を以てし、未成年者らがあと数年成長後に申立人を慕って面接交渉を望む時期を待たせることとするのが、未成年者らの福祉のため適当であると解される。
  • 3 蛇足ながら、相手方においても、申立人との離婚無効訴訟の結末がどうなるにせよ、未成年者らの父は申立人のほかにはなく、かつその健全な成長のためには、申立人の愛情も相手方のそれに劣らず必要であることに思いをいたし、未成年者らの監護養育について関心を寄せる申立人の心情も理解し、時に応じ未成年者らの発育状態について自発的に信書または写真を申立人に送付するなど、きめ細かい配慮をすることが望ましい。申立人がこれに応えて未成年者らおよび相手方を励まし、適切な助言協力を惜しむべきでないことは言うまでもない。
  • 4 よって本件申立はその理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

 (家事審判官 村田善明)

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