損害賠償請求事件

東京地方裁判所

平成30年(ワ)第14188号

令和01年11月22日

東京都(以下略)
原告 X
同訴訟代理人弁護士 清瀬雄平
同 塚本亜里沙
東京都(以下略)
被告 Y1
(以下「被告Y1」という。)
東京都(以下略)
被告 Y2
(以下「被告Y2」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 北出加代子
東京都(以下略)
被告ら補助参加人 A
(以下「補助参加人」という。)

主文

  • 1 被告らは、原告に対し、連帯して、110万円及びこれに対する平成30年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  • 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
  • 3 訴訟費用(補助参加費用を含む。)は、これを20分し、その19を原告の負担とし、その余を被告ら及び補助参加人の負担とする。
  • 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求の趣旨

  被告らは、原告に対し、連帯して、2200万円及びこれに対する平成30年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 事案の要旨

  本件は、原告が、被告らが原告と母との面会を妨害するところ、同妨害が母と会いたいという原告の法的な保護に値する利益を侵害し、社会的相当性を逸脱するものであると主張して、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、損害金2200万円(慰謝料2000万円及び弁護士費用相当損害金200万円の合計額)及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成30年5月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

2 前提事実

  以下の各事実は、当事者間に争いがない事実であるか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。

(1) 当事者等

  • ア 原告(昭和30年(以下略)生)は、B(昭和4年(以下略)生。以下「B」という。)とCの三女であり、被告Y1(昭和25年(以下略)生)は、その長女、被告Y2(昭和28年(以下略)生)は、その二女である(当事者間に争いがない事実)。
  • イ Bは、平成25年10月30日、自己の財産を管理処分するには、援助が必要な場合があるという医師の診断を受け、同年11月1日、被告らそれぞれとの間で、任意後見契約を締結した。補助参加人は、被告らを任意後見人とする各任意後見について、それぞれ任意後見監督人として選任された弁護士である。(甲45~47、丙2(1頁)、3)

(2) Bの生活状況

  • ア Bは、平成19年12月22日に夫であるCが死亡した後、引き続き東京都D区E町所在の自宅(以下「B宅」という。)において、単身で居住していた(当事者間に争いがない事実)。
  • イ 被告らは、平成24年11月29日から同月30日までにかけ、Bを連れてB宅を出て、以後、Bは、被告Y1の自宅(以下「被告Y1宅」という。)又は被告Y2の自宅(以下「被告Y2宅」という。)において、2、3か月ごとに交互に生活を送り、平成27年10月以降、施設において生活を送っている(当事者間に争いがない事実、丙4の1~3)。

(3) Bとの面会等を求める原告の要求に対する被告らの対応

  被告らは、Bを連れてB宅を出て以降、原告からのBとの面会の求めに応じることはなく、原告に対し、Bの居所を知らせることもなかった。

  その結果、原告は、平成25年6月5日、自らの調査等の結果として判明したBの入院先を訪れ、Bと面会をしたほか、平成27年2月25日、被告らの了承を得て、F駅において、遠方からBを眺めることができただけであった。(以上について、当事者間に争いがない事実、甲41、52、53、弁論の全趣旨)

3 争点及びこれに関する当事者の主張

  (1) 被告らが原告とBとの面会をさせないことが、親に会いたいという子である原告の法的な保護に値する利益を侵害し、社会的相当性を逸脱するものか。
  (原告の主張)
  被告らは、BをB宅から連れ去った後、原告からの度重なる連絡を無視し、原告に対してBの居所を教えることをも頑なに拒否し続けた。その結果、原告は、平成24年11月29日以降、平成25年6月5日にG病院で面会をした外、Bと面会をし、会話をすることができない状況にある。
  被告らは、原告と面会をすることによりBが小脳梗塞を再発するおそれがあると主張するが、その主張についての医学的な裏付け、客観的な証拠はなく、被告らが原告とBとを会わせないことについて、合理的な根拠はない。また、被告らの行為は、Bを事実上囲い込み、Bの挙動を実質的に支配しているという状況を奇貨として、合理的な根拠を示すことなく、Bの居所をも知らせないことにより、原告にBとの面会を断念させようとするものであるから、任意後見人たる地位の濫用にほかならず、悪質である。さらに、被告らは、財産目当てでBを囲い込んだという事実が露見することをおそれ、原告とBとが会うことを頑なに拒み続けているから、その動機は身勝手の一語では表し切れないほどに利己的であり、斟酌すべき点は微塵もない。
  したがって、被告らの行為は、5年以上の長期にわたり、何ら合理的な理由なく原告とBとが面会をすることを妨害し、親に会いたいと願う子である原告の法的な保護に値する利益を侵害するものであるから、社会的相当性を逸脱し、違法である。
  なお、被告らは、補助参加人の指導・監督の下、原告とBとの面会をさせず、原告に対してBの居所を開示しなかったと主張するが、補助参加人は、被告らの主張を鵜呑みにし、追随して、体裁を取り繕って家庭裁判所に報告をしていただけで、Bのために何一つ具体的な行動をしていない。したがって、被告らが補助参加人の指導・監督を受けていたからといって、被告らによる面会妨害の違法性は阻却されない。
  (被告らの主張)
  成年の子が親に会いたいと願う利益は、法的な保護に値しない。
  被告らは、万が一にもBが小脳梗塞を再発し、取り返しのつかない事態を招くわけにはいかないことから、原告とBとの面会を拒否している。また、被告らは、Bの身上配慮の責務を負うところ、Bをそっとしておいてあげるのが相当であるという被告らの対応は、Bの身上看護を考えてのものである。したがって、被告らが原告とBとの面会を拒絶したことは、社会的相当性を逸脱せず、何ら違法行為を構成しない。
  なお、被告らは補助参加人に対し、任意後見人としての職務内容(Bの所在及び利用施設を含む。)を報告し、補助参加人は東京家庭裁判所に対し、報告書類を提出しているが、同裁判所から問題点を指摘されたことはない。
  (補助参加人の主張)
  被告らが原告とBとを会わせていないのは、身上配慮の責務の一環である。すなわち、原告が被告Y2宅を訪れ、呼び鈴を鳴らし、Bとの面会を求めた際、Bが、怖さを感じ、呼び鈴に応じることなく、原告との面会を求めることがなかったこと、Bが入院し、退院後もリハビリに励み、現状も年齢相応であることからすると、被告らが原告とBとの面会の場を設定しないことが、社会的相当性を逸脱するものでないことは明白である。また、認知症が進んできたBの体調を考えても、被告らの対応は、「そっとしておいてあげるのが相当である」というBの身上看護を考えてのものであるから、社会的相当性を逸脱しているとはいえない。
  なお、補助参加人は、東京家庭裁判所に対し、任意後見監督人としての報告をしているが、同裁判所から、被告らの行為が違法であるとの指摘を受けたことはなく、また、調停期日において、被告らの対応について裁判官と話をする場面もあったが、その際も、同裁判官から、被告らの対応が違法であるという指摘を受けることはなかった。
  (2) 原告の損害
  (原告の主張)
  ア 慰謝料
  原告は、5年以上にわたり被告らから数々の精神的苦痛を受け続け、客観的な資料もないのに、不当に敬愛する母との交流を妨げられた上、人格的にも貶められるなどした。これらの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は2000万円を下らない。
  イ 弁護士費用相当損害金
  原告は、本件訴えの提起を弁護士に依頼せざるを得なかったところ、そのための弁護士費用相当損害金は200万円が相当である。
  (被告らの主張)
  争う。

第3 当裁判所の判断

1 認定事実

  前記第2の2の前提事実(以下「前提事実」という。)、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。

  • (1) Bは、平成19年12月22日に夫であるCが死亡した後、B宅において、単身で居住することになった。Bの生活については、B宅の近所に居住していた原告が種々の面倒をみていた状況にあり、平成24年11月29日当時、Bの預金通帳、キャッシュカード等を原告が管理していた。(前提事実(2)ア、甲31、乙2、丙5の1、丙6の3、原告本人(調書1、2頁))
      Bは、平成23年4月24日、けいれん発症に伴う意識障害、肺炎の疑いでH病院に緊急入院し、同入院中に正常圧水頭症を指摘されたことから、同年5月11日に同病院に再入院し、腰椎・腹腔シャント術が施行され、歩行自立の能力等が改善されたことがあった。もっとも、Bは、平成24年11月当時、独力で、公共交通機関を利用するなどし、移動をすることができない状況にあった。(甲38、丙9、原告本人(調書3、4頁)、被告Y1本人(調書32頁))
  • (2) Bは、平成24年11月27日付けで自筆の書面を作成したが、同書面には、「全財産の管理をXにおねがいしたいので預けます B平成24年11月27日」と記載されている(甲31、丙6の3、原告本人(調書18頁))。
  • (3) 被告らは、平成24年11月29日、Bを連れてB宅を出て、被告Y2宅に宿泊させ、以後、Bは、平成27年10月まで、被告Y2宅又は被告Y1宅で生活をするようになった(前提事実(2)イ、被告Y1本人(調書2頁)、被告Y2本人(調書1頁))。
      なお、原告は、平成24年12月頃、夫とともに被告Y2宅を訪れ、呼び鈴を鳴らした上、Bに出てくるように求めたが、Bが出てくることはなかった。(原告本人(調書5、6頁)、被告Y2本人(調書2頁)、丙6の5、弁論の全趣旨)。
  • (4) 原告は、平成24年12月27日、被告らを相手方とし、BのB宅での生活支援と財産保全についての親族間の紛争の調整を求め、東京家庭裁判所に親族間の紛争調整調停の申立て(同裁判所平成24年(家イ)第10695号)をした。しかし、同調停手続は、被告らが期日に出頭をしなかったため、平成25年4月11日、調停が成立しないものとして終了となった。(甲40の1、2)
  • (5)
    • ア Bは、平成25年1月27日、めまい、おう吐の症状が出現したため、G病院に救急搬送され、同病院に入院した。Bは、同病院耳鼻科において、保存的な加療を受けていたが、同年2月1日のMRI検査の結果、小脳梗塞と診断され、同病院脳神経内科で治療(同日から同月8日までは高度治療室における治療)を受けた。Bは、同治療の結果、症状が安定したところ、更にリハビリを継続したいという希望があったことから、同年3月26日、同病院リハビリテーション科でリハビリが施行されることとなり、結局、同年6月7日に退院した(退院時の転帰は「軽快」である。)。(甲37、39、丙10、16~19、被告Y1本人(調書20、21頁))
    • イ 原告は、被告らからBと面会をすることを拒絶され、Bの居所等を知らされることもなかったことから、自力で調査等をし、BがG病院に入院をしていることを探し当て、平成25年6月5日、G病院を訪れて、Bと面会をした。原告とBとの面会における会話は、自然なやり取りがされているが、その会話の中で、Bが原告に対し、「家に帰りたい。X(X)に会いたいってずっと言っていたの。」と話すこともあった。(前提事実(3)、甲41(1頁)、原告本人(調書7、8頁))
  • (6) Bは、平成25年11月1日、被告らとの間で、Bが被告らに対し、精神上の障害により判断能力が不十分な状況にあるBの生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うことを委任し、被告らそれぞれが独立してこれを受任する旨を約する任意後見契約公正証書を作成し、任意後見契約を締結した。同公正証書4条には、被告らは、本件後見事務を処理するにあたっては、Bの意思を尊重し、かつ、Bの身上に配慮しなければならないと定められている(4条1項・身上配慮の責務)。
      そして、平成26年3月27日、被告Y1によるBの任意後見について、また、同年5月13日、被告Y2によるBの任意後見について、その任意後見監督人に補助参加人を選任する旨の審判がそれぞれ確定した。(以上について、前提事実(1)イ、甲46、47、丙3)。
  • (7)
    • ア 原告は、被告らからBと面会をすることを拒絶され、Bの居所等を知らされることもなかったことから、平成26年11月17日、被告らを相手方とし、Bの生活支援の方法と面会交流の方法についての親族間の紛争の調整を求め、東京家庭裁判所に親族間の紛争調整調停の申立て(同裁判所平成26年(家イ)第9613号)をした(甲51、弁論の全趣旨)。
    • イ 前記アの調停手続の中で、被告らが、直接でなく遠くからでもいいからBと会いたいという原告の希望を容れたことから、原告は、平成27年2月25日、F駅の改札口の近くまで連れて来られたBを、同駅の改札内から眺めることができた(前提事実(3)、甲52、53の1、2、原告本人(調書26頁)、弁論の全趣旨)。
    • ウ 平成27年5月28日、被告らが原告に対し、Bの写真を少なくとも年2回以上送ること、Bの生活状況及び体調に著しい変化があった場合には、診断書を添えて報告することをそれぞれ約束するという内容の調停が成立した(甲54)。
  • (8) 原告は、平成29年3月31日頃、被告ら及びBを相手方とし、Bとの面会交流及び生活支援等についての親族間の紛争の調整を求め、東京家庭裁判所に親族間の紛争調整調停の申立てをした(同裁判所平成29年(家イ)第2525号)。同調停手続においては、調査嘱託がされたほか、家庭裁判所調査官に対してBの本人調査が命じられたが、被告Y2から協力を拒否され、同調査は実施されなかった。結局、同調停手続は、平成30年3月5日、調停成立の見込みがないとされ、終了となった。(甲55、78の1、2、甲79、弁論の全趣旨)
  • (9) Bについては、平成31年1月26日の時点で、「認知症は当院での検査上長谷川式 2点・・・と重度であると考えます。」と記載された診断書が作成されており、現在、意思疎通がやや困難な状況にあると判断されている(乙3、丙8)。
  • (10) Bは、平成27年10月まで、デイサービスを利用しつつ、2、3か月ごとに交互に被告ら宅で生活を送っていたが、同月以降は、被告ら宅に住民票上の住所を置きつつ、施設(ただし、平成28年4月及び平成30年12月に施設を代わっている。)での生活を送っている。Bの居所については、被告らから原告に対して教えられることはないが、被告らから補助参加人に対して報告がされ、更に補助参加人から東京家庭裁判所に対して報告がされている。この報告について、同裁判所から特に問題を指摘されることはなかった。(丙4の1~3、証人補助参加人(調書8~10頁)、被告Y1本人(調書9頁)、被告Y2本人(調書5頁))
      もっとも、補助参加人は、Bと会ったことはなく、Bから原告と会うことについての意向を聴取するなどしたことはないし、Bの病状について、医師から説明を受けたこともない(証人補助参加人(調書2、12、13、24、28頁))。

2 争点(1)(被告らが原告とBとの面会をさせないことが、親に会いたいという子である原告の法的な保護に値する利益を侵害し、社会的相当性を逸脱するものか。)について

  • (1) 前提事実(3)及び前記1の認定事実(以下「認定事実」という。)(7)イのとおり、被告らは、平成24年11月29日にBを連れてB宅を出て以降、調停手続の中で、直接でなく遠くからでもいいからBと会いたいという原告の希望を容れたという以外、原告からのBとの面会の求めに応じることがなく、原告に対し、Bの居所を知らせることもないという状況が継続していることが認められ、被告らの各本人尋問の結果(被告Y1本人(調書14、15、26~28頁)、被告Y2本人(調書14頁))及び補助参加人の証言(証人補助参加人(調書2、3、8、13、21頁))によっても、原告とBとの面会を拒絶するという被告らの態度は極めて頑ななものと認めざるを得ず、被告らから、被告らの立会い等の条件次第でBとの面会を認めるといった態度が示されているという事実をうかがわせる証拠もない。そうすると、認定事実(1)のとおり、Bが、独力で、公共交通機関を利用するなどし、移動をすることができない状況である以上、原告は、被告らによるBとの面会拒絶等により、Bと面会をし、交流をするという機会を奪われる状況に置かれているということができる。   そして、たとえ子が成人に達した後であっても、子が親を思い、親と面会をし、交流をしたいと願うことは、子の自然な思いとして、我が国の法秩序においても尊重すべきものであり、また、親が会いたくないという意向を有しているといった事情でもない限り、親と面会をし、交流をすることは、本来自由にされるべきものと考えられる。そうすると、親と面会をし、交流をしたいという子としての素朴な感情、又は自由に親と面会をし、交流をするという利益は、それ自体が法的な保護に値するということができる(これに反する被告らの主張は採用することができない。)から、合理的な理由もないのに、親と会って交流をするという子の機会を奪い、同感情等をいたずらに侵害することは、社会的相当性を逸脱するものとして、不法行為を構成するものと解すべきである。
  • (2) そこで、被告らによる原告とBとの面会拒絶等について、合理的な理由がないものであるか否かを検討する。
    • ア まず、認定事実(5)イのとおり、原告とBは、平成25年6月5日にG病院で面会をし、会話をしているが、同面会における会話の内容は、自然なやり取りがされており、同会話の中で、Bが原告に対し、「家に帰りたい。X(X)に会いたいってずっと言っていたの。」と話すこともあったことが認められる。そして、原告とBとの会話の具体的な内容(甲41)をつぶさに検討し、また、Bの応答自体に、久々に会った原告に対する一定の配慮があり得ることを考慮しても、原告と会いたくないというBの意向が同会話の内容等に表れているということはできない。そうすると、Bが原告に会いたくないという意向を有しているという被告らの陳述及び供述は、同会話の内容に沿うものではなく、また、認定事実(8)のとおり、家庭裁判所調査官によるBの本人調査への協力が被告Y2により拒否されていることに照らしても、同陳述及び同供述をそのまま信用することはできず、Bにおいて、原告と会いたくないという意向を有しているという事実を認めることはできない。
    • イ 次に、被告らは、原告とBとの面会等を拒絶する理由として、万が一にもBが小脳梗塞を再発し、取り返しのつかない事態を招くわけにはいかないからであり、また、被告らがBの身上配慮の責務を負うところ、被告らの対応がBをそっとしておいてあげるのが相当であるというBの身上看護を考えてのものであると主張し、補助参加人も同旨を主張する。
       しかし、認定事実(5)アのとおり、Bは、平成25年1月27日、めまい、おう吐の症状が出現し、G病院に救急搬送されて、同病院に入院し、同年2月1日のMRI検査の結果、小脳梗塞と診断され、同病院脳神経内科で治療(同日から同月8日までは高度治療室における治療)を受けたが、同治療の結果、症状が安定し、更にリハビリを継続したいという希望があったことから、同年3月26日から同病院リハビリテーション科でのリハビリの施行を受け、同年6月7日に退院したことが認められる。そうすると、Bの小脳梗塞は、治療の結果、Bなりの日常生活を送ることができる程度にまで回復をし、その症状も安定している状況にあると推認することができるのであり(この推認を覆すに足りる的確な証拠はない。)、一般的なストレスにより小脳梗塞を直ちに再発するような高いリスクを負った状況にあるとは認められない。そして、同月5日の原告とBとの間の会話の内容(甲41)に加え、実際にも、認定事実(5)のとおり、Bは、原告と面会をしたわずか2日後の同月7日に退院をしているのであるから、Bにとって、原告との会話が過度のストレスを生じさせるものであるとも認められない。さらに、原告とBとの面会において、Bのストレスを軽減するための一定の措置を執ることも可能であると考えられる。そうすると、小脳梗塞をいったん発症した以上、一定のストレスにより小脳梗塞の再発をするリスクがあるということ自体を否定することはできないが、当該リスクを理由として原告とBとの面会等を拒絶することは、不合理なものといわざるを得ない。
       また、万が一にもBが小脳梗塞を再発し、取り返しのつかない事態を招くわけにはいかないという理由が、原告とBとの面会等を拒絶する理由として不合理なものである以上、Bをそっとしておいてあげるのが相当であるという判断についても根拠が乏しいといわざるを得ないから、同判断がBの身上看護を考えてのものであったとしても、そのような判断が原告とBとの面会等を拒絶する合理的な理由となり得るものではない。
  • (3) 前記(1)及び(2)で説示したところによれば、被告らそれぞれがBの任意後見人として、Bの身上看護について責務を負うほか、その職務の遂行に当たって一定の裁量を有していることを考慮しても、平成24年11月29日以降の長期にわたり、被告らが原告とBとの面会を拒絶等していることは、合理的な理由もないのに、親と会って交流をするという機会を原告から奪い、親と面会をし、交流をしたいという法的な保護に値する子としての原告の感情等をいたずらに侵害するものであるから、不法行為を構成するといわざるを得ない。
  • (4) なお、被告らは、補助参加人に対し、任意後見人としての職務内容(Bの所在及び利用施設を含む。)を報告し、補助参加人は東京家庭裁判所に対し、報告書類を提出しているが、同裁判所から問題点を指摘されたことはないと主張し、補助参加人も同旨を主張する。しかし、同裁判所又は調停の担当裁判官から問題点を指摘されないことが、被告らによる面会拒絶等が違法であるとはいえないことを直ちに意味するものではない。また、その点をひとまず措くとしても、認定事実(10)のとおり、補助参加人は、Bと会ったことはなく、Bから原告と会うことについての意向を聴取するなどしたことはないし、Bの病状について、医師から説明を受けたこともないことが認められるから、同裁判所又は調停の担当裁判官が的確な判断をするだけの情報を得ていたとは考えられない。そうすると、同裁判所から、又は調停の担当裁判官から問題点を指摘されなかったからといって、前記(1)から(3)までの判断が左右されるものではない。

3 争点(2)(原告の損害)について

(1) 慰謝料額

  前記2で説示したとおり、被告らが原告に対し、母の居所に関する情報を伝えることもないまま、Bとの面会を長期にわたり拒絶等していることは、不法行為を構成するところ、同不法行為の違法性の程度、その結果として原告が令和元年中に90歳を迎える高齢の母と面会をし、交流を図ることが長期にわたりできておらず、その間にBの認知症が進行している様子であること(認定事実(9))、一方で、被告らにとっても、遠くから眺めるという方法であるとはいえ、原告のBとの面会の要望に応じ、その結果として調停が成立した(認定事実(7)イ、ウ)ことから、原告から更なるBとの面会の要求がされることがないのではないかと期待した期間もあったと考えられること等の本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告の被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は、これを100万円とすることが相当である。

(2) 弁護士費用相当損害金額

  前記(1)で説示したとおり、被告らの不法行為により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料額は100万円とすることが相当であるところ、同慰謝料額に加え、本件事案の内容等の事情を考慮すると、被告らの不法行為と相当因果関係があると認められる弁護士費用相当損害金は、これを10万円とすることが相当である。

4 結論

  よって、原告の請求は、被告らに対し、110万円及びこれに対する平成30年5月23日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから、これらを認容し、その余は理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第49部

裁判官 松本真

comments powered by Disqus