面会交流審判に対する抗告申立事件

東京高等裁判所

平成25年(ラ)1205号

平成25年7月3日

抗告人 甲野花子 同代理人弁護士 丙山一郎 相手方 甲野太郎 未成年者 甲野薫

主文

1 原審判を取り消す。 2 本件を新潟家庭裁判所に差し戻す。

理由

第1 本件抗告の趣旨及び理由

 別紙「抗告申立書」(写し)に記載のとおりである。

第2 事案の概要等

### 1 事案の概要  抗告人(昭和44年5月*日生)と相手方(昭和40年1月*日生)とは、平成13年ころ婚姻の届出をしたが、平成17年1月*日に離婚し、同月31日再び婚姻の届出をした夫婦である。夫婦は、平成17年8月*日に、未成年者甲野薫をもうけた。抗告人は、平成24年3月末ころ、未成年者を連れて自宅を出、以後相手方とは別居状態にある。抗告人と相手方との間には、抗告人が新潟家庭裁判所に対し申し立てた夫婦関係調整調停事件(同裁判所平成24年(家イ)第257号事件。以下「別件調停」という。)が係属している。相手方は、平成24年10月12日、同裁判所に対し、未成年者との面会交流を求める調停事件(以下「本件調停」という。)を申し立てたが、本件調停は不調となり、審判に移行した(頭書事件)。同裁判所は、抗告人に対し、別紙面会要領記載の内容で未成年者と相手方との面会交流をさせる義務があることを定め、同義務を履行することを命じる審判をした(以下「原審判」という。)。原審判を不服とする抗告人は、原審判を取り消し、相手方の面会交流の申立てを却下することを求めて抗告した。

2 当事者の主張

 本件における当事者双方の主張は、次のとおり補正するほかは、原審判の「理由」の第2に記載のとおりであるから、これを引用する。
 (原審判の補正)
 2頁8行目の「あること」を、「あるところ、未成年者との面会交流を通じて相手方に抗告人の現住所を察知されるおそれが払拭できないこと」に改める。

第3 当裁判所の判断

1 一件記録によれば、以下の事実が認められる。

  • (1) 抗告人と相手方は、平成13年ころ婚姻の届出をしたが、平成17年1月*日に離婚し、同月*日再び婚姻の届出をした夫婦である。夫婦は、平成17年8月*日、長女である未成年者をもうけた。
  • (2) 抗告人は、平成24年3月末ころ、未成年者を連れて自宅を出、以後現在まで抗告人が未成年者を監護養育している。  抗告人が家を出た理由は、抗告人の主張によれば、相手方から奴隷のように扱われていたと感じていたこと、相手方から度々理不尽な暴力を振るわれ、強い恐怖心を抱いていたこと、平成24年正月に抗告人の不貞行為が相手方に発覚し、相手方から殴られた後、「一生かけて償え。」、「何事にも言うこと聞くしかないんだぞ。」などと言われて、抗告人としては、以前にも増して相手方に対して逆らえず、服従せざるを得ない状況になったと考えていたことなどである。
  • (3) 抗告人は、別居後、新潟家庭裁判所に対し、相手方との離婚を求める別件調停を申し立て、現在も係属中である。
  • (4) 相手方は、抗告人が別件調停において今後未成年者と相手方とを面会させるつもりはない旨述べたことから、平成24年10月12日、新潟家庭裁判所に対し、未成年者との面会交流を求める本件調停を申し立てた。  抗告人は、代理人弁護士と共に平成24年10月15日の第1回調停期日に出頭したが、その帰途、不審な自動車が追尾してきたとして、相手方の指図を受けた者が抗告人の住居を突き止めるために追尾してきたと感じざるを得ないと主張して、その後開かれた3回の調停期日には代理人弁護士だけが出頭した。そのためもあり、平成24年3月21日、本件調停は不成立となり、審判に移行した。
  • (5) 原審における家庭裁判所調査官(以下「調査官」という。)による調査結果等
    • ア 別件調停において、平成24年7月から8月にかけ、調査官が抗告人宅で抗告人と未成年者に面接する等して抗告人の意向調査及び未成年者の監護状況について調査が行われた(以下「最初の調査」ともいう。)。
       抗告人は、調査官に対し、相手方に対する恐怖感が強く、どうしても離婚したいこと、未成年者の親権者は抗告人としたいこと、現時点では未成年者と相手方との面会交流は認められず、相手方との接触を一切絶ちたいこと、そのため、養育費、慰謝料等の金銭給付はなくてもよいことなどを述べた。そして、抗告人が未成年者と相手方との面会交流を認めない理由として、未成年者を通じて現在の住所が相手方に察知されるおそれがあること、別居後ようやく未成年者の生活リズムが整い、小学校で素直さが戻ってきたこと、相手方は約束を守る人ではなく、未成年者を物で釣る等して以前のように相手方が飲みに行く際に連れて行くなどして未成年者の生活を乱すおそれがあることなどを挙げた。
       抗告人の意向により調査官が身分や家庭裁判所の調査であることを告げなかったこともあり、未成年者は、調査官に対し、リラックスした雰囲気の中、ざっくばらんな口調でいろいろな話をした。前の家にいたときの思い出として、サンタさんがキーボードと楽譜をプレゼントしてくれたこと、クリスマスの朝起きたら、抗告人と相手方からプレゼントがあるよと言われてこれらを見つけたときの驚きやうれしかった様子なども説明した。他方、未成年者は、前の家での生活と今の生活で変わったところはないとも答えた。
       未成年者の平成24年(小学1年生)の1学期の通知表によれば、未成年者に対する学業についての評価は、水泳に関する項目のみ「がんばろう」で、その余の22項目はいずれも「できる」とされ、身の回りの整頓、積極性、係活動、友人関係などの生活面も、いずれも「たいへんよい」とされている。未成年者の担任教諭は、未成年者が運動会のリレー選手として活躍し、自学態度が定着していること、適応力が高いと評価している。
    • イ 別件調停及び本件調停において、平成24年11月から12月にかけ、調査官が新潟家庭裁判所で抗告人と面接する等して、抗告人の意向調査を行った(以下「中間の調査」ともいう。)。
       抗告人は、離婚についての考えは上記アの調査時と変わらないとした上で、未成年者と相手方との面会交流について、要旨次のとおり述べた。〈1〉面会交流を通じて現在の住所を知られるのが不安であること、平成24年10月15日の調停期日の後、帰宅時に相手方の関係者から尾行されたと考えており、不安や恐怖心が強まったこと、〈2〉相手方は、同居中、王様のように振る舞っており、これを見ていた未成年者も、抗告人の言うことを聞かず、思い通りにならないとかんしゃくを起こしたり、友達を言いなりに動かしていたこと、〈3〉しかし、別居後、抗告人が育て直しをしたことから、徐々にこのような振る舞いはなくなり、友人関係もよくなったこと、〈4〉現在良い状態で生活している未成年者が、相手方との面会交流の際の相手方の言動により、気持ちが混乱し、再び生活態度が乱れてしまうおそれがあること、〈5〉抗告人は、恐怖心から相手方に会うことができず、抗告人として納得できる未成年者の受け渡しの方法がないなどとして、未成年者が自らの判断で意思決定ができるときまでは面会交流には応じられないとした。また、抗告人は、手紙による交流については、相手方が手紙に未成年者に会いたいなどと書くと、未成年者の気持ちが乱れるので、慎重に考えざるを得ないとした。そして、抗告人は、調査官に対し、面会交流の意義、必要性は知っているが、すべての家庭に当てはまるものではなく、本件では適当ではないとして面会交流を拒否した。
    • ウ 別件調停及び本件調停において、平成24年12月から平成25年3月にかけて、調査官が抗告人宅で未成年者に面接する等して未成年者の状況等についての調査が行われた(以下「最後の調査」ともいう。)。
       未成年者は、最初に調査官が調査の目的等を説明すると、元気がなくなり、表情が曇った様子になった。未成年者は、調査中、母親である抗告人の話をするときには笑顔を見せたが、前の家にいたときに楽しかったことは何かという質問に対し、すぐに「ない。」と答え、その後調査官が具体的な質問をしても、楽しかった話はあまりしなかった。しかし、相手方との楽しい思い出として、みんなで食べ物屋さんで焼き鳥を食べたりしたことを挙げた。また、調査官が、未成年者に対し、相手方が会いたいと言ったらどうするかと尋ねたところ、未成年者は、少し間をおいて「がんばっていく。」と答えたが、相手方について、いつも抗告人を怒っていて怖いとも述べた。
       抗告人は、上記調査官による面接調査の翌朝、調査官に電話連絡し、未成年者が、昨夜、相手方に会いたくないのに会いたいと調査官に答えてしまったとして、普段以上に抗告人にしがみつき、そばにいて欲しいとせがんで泣いたりしたと伝えた。また、抗告人は、調査官に対し、難しい考え方や答えを誘導したのではないかと思わざるを得ないとして、今後、どんな状況になっても未成年者を相手方に会わせることには応じられないし、未成年者を辛い思いに巻き込む調査にも応じられないなどと、調査に対し苦情を述べた。
  • (6) 別件調停では、抗告人が、離婚、未成年者の親権者を抗告人に指定することを求めているのに対し、相手方は、そのいずれについても争っている。

2 相手方と未成年者との面会交流の実施の可否について

  • (1) 子は、同居していない親との面会交流が円滑に実施されていることにより、どちらの親からも愛されているという安心感を得ることができる。したがって、夫婦の不和による別居に伴う子の喪失感やこれによる不安定な心理状況を回復させ、健全な成長を図るために、未成年者の福祉を害する等面会交流を制限すべき特段の事由がない限り、面会交流を実施していくのが相当である。
  • (2) 抗告人が、未成年者と相手方との面会交流を拒絶する理由として主張しているのは、〈1〉相手方による未成年者連れ去りの懸念が払拭できないこと、〈2〉未成年者との面会交流を通じて相手方に現在の住所地を知られることに対する不安、〈3〉相手方の言動が未成年者に与える悪影響、〈4〉相手方への恐怖心から、面会交流の受渡しの際に相手方と会うことができないことなどである。これらのうち、上記〈1〉、〈2〉及び〈4〉は、いずれも抗告人が相手方に対して抱いている恐怖心に由来するものであり、相手方が同居中に抗告人に対し暴力をふるった事実を認めていることなどによれば、抗告人が相手方に対し恐怖心や不安を抱くことはやむを得ないところではある。しかし、相手方が同居中に未成年者に対し暴力等を振るった事実は認められず、抗告人の相手方に対する恐怖心や不安をもって、直ちに未成年者と相手方との面会交流を制限すべき特段の事由があるということはできない。また、上記〈3〉について、抗告人は、調査官に対し、未成年者は幼稚園在籍時に相手方の抗告人に対する言動の影響で、問題行動が多かった旨述べているが、かかる事実が認められる場合には、未成年者の問題行動の頻度や程度、未成年者に対する相手方の影響との因果関係等のいかんによっては、面会交流の制限事由に当たる場合がないではない。しかし、未成年者に上記問題行動の事実を認めるに足りる幼稚園関係者の陳述や、連絡帳等の記載内容などの的確な証拠資料が存在しない本件においては、上記抗告人の供述のみをもって、上記面会交流の制限事由があるとまでいうことはできない。そして、前記認定したとおり、調査官による調査によっても、未成年者が相手方を拒絶していることが窺える事情が認められず、未成年者が同居中の両親との良好な思い出を有しているといえる本件においては、原審が説示するとおり、面会交流を実施していくことが必要かつ相当である。
  • (3) この点、抗告人は、当審において、〈1〉未成年者は、調査官による調査によっても、相手方に会いたいという意向は示していないこと、〈2〉未成年者に対し、相手方との面会交流を強要することは、未成年者を苦しめ、強い精神的負担を与えること、〈3〉調査官による調査によっても、現在のところ、未成年者の状況に大きな問題はなく、相手方との面会交流を実施しなくても、格別の支障はないことを理由に、面会交流を制限すべき特段の事由があると主張する。
     確かに、調査官による調査結果によれば、現在のところ、未成年者にとり、母親である抗告人は要の存在であると認められる。しかし、未成年者が別居後もっぱら抗告人と2人で生活し、そのほとんどすべての部分を抗告人に頼っている状況にあること、未成年者は未だ7歳であり、親に対し必要以上に気遣いをする傾向がある年齢であることによれば、小学校での学業や生活面における評価から聡明であるといえる未成年者において、抗告人に代わる存在がいない現状で、抗告人に対し殊更に気遣いをすることは容易に推認し得るところである。抗告人が相手方を強く拒絶しており、未成年者と相手方との面会交流を否定していることを未成年者が察しているといえるのは、それ故であると認めるのが相当である。そして、前記調査官による調査によっても、未成年者が父親である相手方を拒絶していることが窺える事情は認められないこと、調査において、調査官が身分等を明らかにした途端、未成年者の元気がなくなり、表情が曇った様子になったこと、未成年者は、相手方から会いたいと言われたらどうするかと調査官に問われ、「がんばっていく。」と答えたのを、抗告人に対しては、会いたいと言ってしまったので取り消したいと報告し、その後未成年者は普段以上に抗告人に甘えたことなどによれば、未成年者は、原審判が説示するとおり、両親双方に対する感情が入り交じり、忠誠葛藤を生じている状況にあるというべきである。そうすると、未成年者は、相手方に会いたいという意向は示していないとはいえず、上記〈1〉は理由がない。また、未成年者に精神的負担を与えているのは、相手方との面会交流を強要することではなく、上記のとおり忠誠葛藤を生じていることにあるというべきであるから、上記〈2〉も理由がない。確かに、調査の結果によれば、未成年者の現在の生活状況には問題がないとされている。しかし、これは、控訴人との二人の生活において格別の問題がないというにとどまるものであって、父親である相手方との面会交流が実施されない現状が未成年者の生育にとり問題がないとしているものではない。両親に対する忠誠葛藤が未成年者に対し精神的な負担を与えていることは前記のとおりである。したがって、上記〈3〉も理由がない。
     以上によれば、抗告理由によっても、未成年者と相手方との面会交流を制限する事由があるということはできない。そして、未成年者は、その抱える忠誠葛藤を軽減するために、両親の適切な対応、すなわち、母親との現在の生活を維持しつつ、父親も面会交流を通じ未成年者に対し適切な対応をすることが必要かつ相当な状況にあるというべきである。

3 未成年者と相手方の面会交流の実施について

  • (1) 未成年者が上記のような葛藤を抱える中で、いかにして両親が適切な対応をすべきか、すなわち、どのようにして相手方との面会交流を実施し、継続していくかは、子の福祉の観点から重要な問題である。父母、子三者の情緒的人間関係が色濃く現れる面会交流においては、これら相互の間において、相手に対する独立した人格の認識とその意思への理解、尊重の念が不可欠である。特に父母の間において愛憎葛藤により離別した感情と親子間の感情の分離がある程度できる段階にならないと、一般的に面会交流の実施には困難が伴うというほかない。殊に、子が幼少である場合の面会交流においては、父母間に十分な信頼関係が醸成されていないことを念頭に置きながら、詳細かつ周到な面会交流の実施要領をもって行わなければ、面会交流の円滑な実施は困難であり、仮に実施したとしても、継続性を欠いたり、両親の間で板挟み状態にある子に不要なストレスを与える等、子の福祉の観点からは却って有害なものとなりうるおそれが大である。
  • (2) これを本件についてみるに、現在のところ、抗告人と相手方の間で離婚を巡る調停が係属しており、父母の間における愛憎葛藤の感情と親子間の感情とを分離することまでは困難な状況にあるといえる。したがって、未成年者及び当事者の現状を踏まえた上で、具体的な実施要領を定めることにより、円滑な面会交流の実施を図ることが相当である。そして、未成年者が上記のような葛藤を抱えていることによれば、実施要領の策定に当たっては、両親である当事者が未成年者の現状を理解した上で、これに対応するための条項として、面会交流時や、普段時における禁止事項や遵守事項などを盛り込むことが考えられる。このことは、双方の不信感や抗告人の相手方に対する恐怖心などを軽減するのみならず、条項の内容についての検討を通じて、共に親権者である当事者双方が、未成年者の現在の状況についての認識を共通のものとし、監護親、非監護親それぞれの立場における未成年者に対する接し方を考えることにも繋がり、未成年者の福祉の見地からも必要な過程であるといえる。
  • (3) しかるに、原審判が定めた面会要領のうち、頻度等(実施日)や受渡場所、未成年者の受渡しの方法は、その根拠となる情報等が一件記録からは窺えず、その相当性について判断することができないばかりか、これらについて当事者間で主張を交わす等して検討がされた形跡も認められない。殊に、抗告人が、同居中に行われた相手方の暴力や言動を理由に、相手方に対する恐怖心を強く主張している本件において、未成年者の送迎時に相手方と顔を合わせるような受渡方法は、かなり無理があるというべきである。また、相手方が抗告人に対する暴力の事実を否定していない本件においては、第三者機関の利用等を検討することがまず考えられるべきであるし、その場合、仲介費用等の面で問題があれば、未成年者が一人でも行くことができる受渡場所の設定を検討したり、未成年者が信頼できる第三者を介したりすることも検討すべきと考えられる。
     また、上記(2)で述べたとおり、当事者双方が未成年者の現状を踏まえた上で具体的な実施要領を策定するのが相当であるのに、未成年者の現状についての調査は、当初の調査では夫婦関係調整調停における調査であったこともあってか、調査の目的や調査官であることを秘したままの調査であり、充分な調査が尽くされたとは言い難い。そして、このことを踏まえて実施されたと思われる最後の調査は、調査の目的や調査官であることを未成年者に明らかにしたこともあってか、最初の調査のときに比べて未成年者の態度が大きく異なっており、十分な面接時間をとることができなかったこと、面接終了後に未成年者の状態が不安定となった旨抗告人からの指摘があったことによれば、両親に対し未成年者の現状を理解してもらうとの趣旨からは、十分な調査内容とは言い難い。また、未成年者が未だ7歳であり、聡明であるとされているとはいえ言語的な表現力には欠けることや、抗告人が中間の調査において面会交流を否定する姿勢に終始し、最後の調査における面接終了後には未成年者を辛い思いに巻き込む調査には応じられないなどと述べ、以後の調査に消極的な姿勢を示したことによれば、その後、未成年者との面接にこだわることなく、幼稚園や小学校を調査してこれらにおける未成年者の言動を比較検討し、父母の葛藤下の影響を更に具体的に検証することも考えられるところである。そして、これらの調査の結果、未成年者の相手方への思慕の気持ちが明らかになれば、直接的な面会交流を支持する理由の一つともなり得たはずである。仮に、幼稚園に対する調査結果において、当時の未成年者が精神的に不安定な言動を繰り返していた事実が判明すれば、その原因を更に調査することにより、面会交流の可否も含めた未成年者の情緒面の安定に配慮すべき事項を明らかにすることも可能であったというべきである。
     以上の審理や調査が行われていない原審は、審理不尽であるといわざるを得ない。
  • (4) 抗告人は、当審における自判を求めている。確かに、当審において、未成年者の現状について更に調査を行い、これをもとに具体的な実施要領の策定についての検討を行うことも考えられないではない。しかし、面会交流の事件処理においては、子の福祉の観点から、調査結果を踏まえて更に当事者に主張を促し、その上で教育的な観点から父母に調整等の働きかけを目的とした調査を実施することが望ましいとされており、本件においても、未成年者の実情を把握後、これを両親に伝える段階で調整等の働きかけをし、未成年者の現状を理解してもらうと共に、未成年者に対する両親の対応を含め実施要領の策定を検討することが相当と認められる。しかし、家事審判法及び家事審判規則が適用される本件においては、抗告審である当審における調査は、事実関係の確認をする事実の調査であり調整等の働きかけはできないという制限が存在する(家事審判規則18条)。また、未成年者の意向を調査する場合、以前の調査時とは異なる調査官が未成年者から話を聞く等して直ちにその意向を調査することは困難である。本件においても、まず家庭訪問により抗告人及び未成年者と接触し、関係性を構築し、その後改めて意向調査を実施するという手順を踏むことになるものと思われるところ、遠隔地である新潟市在住の未成年者の調査を行う場合には、その日程等の調整も困難である。他方、原審で審理、調査を行えば、調整等の働きかけも可能であるし、日程調整も当審における調査よりはるかに容易である。そして、調整等の働きかけの結果あるいはその一環として、面会交流を試行する場合においても、試行場所の設定等も含め、原審において行う方が当事者双方及び未成年者において負担が少ない。さらに、具体的な実施要領の策定について、調査結果や当事者双方の主張に基づき検討するに当たっても、当事者双方にとり、遠隔地である当審において期日を設定するよりも、原審で期日を設定した方が負担が少ないというべきである。

 以上によれば、本件は、改めて審理をするため、原審に差し戻すことが相当である。

第4 結論

 以上のとおり、原審は、審理不尽であったといわざるを得ず、子の福祉に思いを致し、もう少し慎重かつ丁寧な事件処理が望まれるところである。
 よって、原審判を取り消し、前記指摘した点その他について改めて審理等をするため、本件を原審に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

第12民事部

 (裁判長裁判官 難波孝一 裁判官 中山顕裕 裁判官 野口忠彦)

別紙

抗告申立書(写し)〈省略〉

面会要領〈省略〉

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