家事事件と人権

下記に日弁連創立60周年記念誌「日弁連六十年」から引用した部分(277〜279頁)を記します。

1 両親の離婚に伴う子どもの権利

(1)両親の離婚が子どもに及ぼす影響

両親が離婚したり、紛争を抱えて別居したりするなどの事態が生ずると、子どもをめぐる環境に重大な変化が生じる。監護状況の変化により、それまでの保護環境が悪化するなどの事態も発生するし、また大きな心理的影響を与える。特に年少の子どもに対しては、その精神面、心理面への影響は大きい。さらに、両親の別居、離婚により、子どもは父母いずれか一方の監護に服することになり、非監護親との日常的な接触を変絶たれる事態も生ずる。このような子どもに対する悪影響を最小限に抑え、環境を保護されることは、子どもにとっての権利でもある。

(2) 離婚後の親権についての法制–共同親権の実現に向けた取組み

現行民法は、両親が離婚すると未成年の子の親権については、父母いずれか一方の単独親権に服するものと定めている。 しかし、このような単独親権の制度のために、親権争いが子の取り合いにいたるなど必要以上に激化したり、親権が一方に決められたりすることによって、他方の親が子の監護についてまったく権限がなくなり、面会交流の制度の不備ともあいまって、子どもとの接触を絶たれてしまうなど、子の権利・福祉の観点からも見過ごせない問題が生ずることがある。 この点、欧米諸国では、すでに共同監護の制度が実現しており、離婚後も両親ともに子どもの監護に関する権限と責任を有することが可能な制度となっている。

わが国においても単独親権のみを定める民法が実情に照らしてもはや相当とはいいがたく、日弁連では、二〇〇六(平成一八)年以降、三回にわたってシンポジウムを開催するなど、共同親権を実現するための法改正に向けて継続して調査研究をすすめている。

(3) 面会交流権の保障

両親の離婚ないし別居により父または母と別居するに至った子どもにとって、非監護親ないし別居親との接触の機会を確保して、精神的つながりを維持し、良好な関係を保つことは、その成長にとってきわめて重要であり、健全に成長発達するための権利である。 また、親にとっても、別居する子どもとの接触を確保することは、自然の情愛に基づく権利であるということができる。

実務上子どもとの面会交流は子の監護に関する処分の一種として認められているが、両親の間の葛藤や反発が大きいことなどにより、その実施がスムーズに行われない事態が生ずることがある。 面会交流を強制的に実現するための法律上の制度として、履行勧告や間接強制の制度があるが、必ずしも十分であるとはいえない。

今後、面会交流権の保障を強化するための運用を確立する必要があるとともに、面会交流の実施を援助するための機関や制度を整え、充実させる必要があり、そのための調査研究を行っている。

2 子の奪取

離婚紛争に伴い、 親の一方が別居にあたって子を一方的に連れ去ったり、 別居している非監護親が子を連れ去ったりするなどの事態がしばしば生ずる。 本来、子の監護をめぐる紛争は協議によって解決するか、協議が整わないときは家庭裁判所の手続によって解決すべきものであり、そのような手続を経ないで子を一方的に連れ去るのは違法である。 しかし、わが国では、このような違法な連れ去りがあったとしても、現状を重視する実務のもとで、違法行為がまったく問題とされないどころか、違法に連れ去った者が親権者の決定において有利な立場に立つのが一般である。

ところで、国際間の子の奪い合いが発生した場合の対処について定める条約として、 「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」 (いわゆるハーグ条約)がある。 これは、共同監護権者の一人の監護権を侵害する子の連れ去りは不法なものであるとされ、このような不法は子の連れ去りが発生した場合の迅速な返還の手続を定めている。 わが国は、この条約を批准していないために、子の連れ去り天国であるとの国際的非難を受けているのみならず、他国の裁判所では、わが国がこの条約を批准していないことを理由に、日本国籍の親を監護権者に指定するのは相当でないとの判断もなされている。

日弁連は、二〇〇三(平成一五)年五月の「子どもの権利条約に基づく第二回日本政府報告に関する日本弁護士連合会の報告書」 (カウンターレポート)においてこの条約の批准を求める意見を述べるなど、取組みをすすめている。

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