保全異議申立事件

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横浜地方裁判所

平成30年(モ)4031号

平成30年07月20日

福岡県(以下略)
債権者 X
同代理人弁護士 山下敏雅
(住所略)
債務者 Y

主文

  • 1 上記当事者間の横浜地方裁判所平成30年(ヨ)第244号面会妨害禁止仮処分命令申立事件について、同裁判所が平成30年6月27日にした仮処分決定を認可する。
  • 2 申立費用中、本件保全異議申立以後のもの及び本件保全異議申立以前の部分のうち、債権者と債務者との間に生じたものは、全て債務者の負担とする。

理由

第1 申立ての趣旨

  • 1 上記当事者間の横浜地方裁判所平成30年(ヨ)第244号面会妨害禁止仮処分命令申立事件について、同裁判所が平成30年6月27日にした仮処分決定を取り消す。
  • 2 債権者の本件仮処分命令申立てを却下する。
  • 3 申立費用は債権者の負担とする。

第2 事案の概要等

1 事案の概要

  本件は、債権者が、債権者及び債務者の父であるA(以下「A」という。)及び同母であるB(以下「B」といい、「A」及び「B」を合わせて「両親」という。)が入居している老人ホーム及び債務者が債権者と両親との面会を妨害していると主張し、人格権を被保全権利として、債務者及び同老人ホームを経営する会社は債権者が両親と面会することを妨害してはならないとの仮処分命令を申し立てたところ、横浜地方裁判所が、債務者及び前記会社のため各金2万円の担保を立てさせて認容する旨の決定をしたことから、債務者がこれを不服として保全異議を申し立てた事案である。

2 主要な争点及び当事者の主張

  本件の主要な争点は、被保全権利の存否及び保全の必要性である。

  債権者の主張は、「仮処分申立書」及び平成30年7月9日付け「答弁書」記載のとおりであるので、これらを引用するが、要するに、被保全権利については、債務者は両親を連れ去り、同人らが入居している老人ホームに対し、同人らの所在を明らかにしないように指示をするなどして、債権者が両親と面会する権利を著しく侵害しているところ、債権者には、人格権等により導かれる、親族である両親との面談を不当に妨害されないという地位に基づく妨害排除請求権及び妨害予防請求権が存すると主張する。また、本案判決の確定を待っていては、債務者の妨害により、債権者の損害が拡大し、回復困難となる危険性が高いことから、保全の必要性が認められる旨主張するものである。

  債務者の主張は、同年6月22日付け「答弁書」及び「保全異議申立書」記載のとおりであるので、これらを引用するが、要するに、債務者は、両親から懇願されたため両親をCに連れてきたのであり、連れ去りの事実はなく、また、債務者は、両親が債権者との面会を拒絶していることから、その意向に沿って施設にその旨伝えているにすぎず、面会妨害の事実はなく、債権者に対する権利侵害はないと主張し、さらに、両親は平穏な生活を送っており、債権者が施設に来ることに怯えている状態にあり、保全の必要性も認められないなどと主張するものである。

第3 当裁判所の判断

1 前提事実

  当事者間に争いのない事実及び一件記録により容易に認められる事実は以下のとおりである。

  • (1) A(昭和6年(以下略)生まれ、住所・(住所略))は債権者及び債務者の実父、B(昭和5年(以下略)生まれ、住所・(住所略))は債権者及び債務者の実母であり、債務者が同人らの長男(兄)、債権者は長女(妹)である。
  • (2) Aは平成25年9月10日から通院している医院において、アルツハイマー型認知症と診断されている(甲2)。また、Aは、介護認定審査会において、要介護1に該当すると判定され、平成29年4月27日付けで同通知を受けた(甲3)。
      Bは、平成27年12月21日にアルツハイマー型認知症との診断を受けた(甲4)。また、Bは、平成29年4月25日、前記審査会において、要介護状態の区分を要介護2に変更する旨判定され、翌26日付けで同通知を受けた(甲5)。
  • (3) 両親は、債権者の住居の近隣である福岡県D市内のA所有の自宅に居住していたところ、同年6月20日、債務者が両親を連れて同自宅からC市に移動したことにより、両親は同自宅を退去した(甲13、甲22)。その際、債権者に対し、事前に両親が退去する旨の連絡はなかった。
  • (4) 同年9月29日頃、債権者は債務者及び両親を相手方として横浜家庭裁判所に、親族間の紛争調整の調停申立てをした(甲1)。
      同調停の第1回調停期日(同年11月8日)に債務者及び両親は出頭しなかったため、家庭裁判所調査官が同人らに対し出頭勧告書を送付し、債務者に対し調査を実施するので同月20日に裁判所へ出頭することを求めたところ、同日、債務者は同調査官に対し、調停には一切出席しないこと、両親の希望で債務者が両親の介護の責任を持っていること、債務者が両親に代理して両親の回答をしていること、調停には応じる考えはないことなどを電話で伝えた(甲14)。
      前記調停は、同年12月6日に第2回期日が開かれたが、債務者及び両親は出頭せず、不成立となった(甲15)。
  • (5) 債権者は、同年11月頃、地域包括支援センターに問い合わせをしたところ、両親は施設に入所中であるが、債務者から施設名を教えないように言われている旨の回答を受けた(甲1)。
  • (6) 債権者は、同年12月頃、横浜家庭裁判所に対し、A及びBについて、それぞれ成年後見開始の審判を申し立てた。
      家庭裁判所調査官による親族調査の際に、債務者は、Aの所在については明らかにしたくないとの意向を示した。また、同調査官が両親が入居していると想定される施設へ問い合わせをしても、入居しているか否かについて回答を得られなかった。(甲27)
      上記両審判申立事件について、現在に至るまで精神鑑定を実施して判断能力の程度を判定することができていない。
  • (7) 両親は、平成29年6月20日以降、債務者の住居で生活をしていたが、債務者が包括支援センターに相談をするなどして、同年10月14日頃から老人ホームに入居した。その後、同年11月頃、C市E区に所在する老人ホーム「F」に転居し、現在まで同施設に入居している(甲26、27、審尋調書第1)。
  • (8) 本件保全異議申立事件の審尋期日において、債権者は、債権者が両親と面会することにつき債務者が応じないのであれば、家庭裁判所調査官と両親が面会することで、債務者に成年後見開始審判申立事件に協力することを求める旨の意向を示したが、債務者は、家庭裁判所調査官の調査にも応じるつもりはない旨述べた(審尋調書第2)。

2 被保全権利の存否について

  債権者は、両親の子であるところ、前記認定事実のとおり、両親はいずれも高齢で要介護状態にあり、アルツハイマー型認知症を患っていることからすると、子が両親の状況を確認し、必要な扶養をするために、面会交流を希望することは当然であって、それが両親の意思に明確に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り、債権者は両親に面会をする権利を有するものといえる。

  そして、前記認定事実のほか、債務者提出の証拠及び本件に顕れた一切の事情を考慮しても、債権者が両親と面会することが両親の権利を不当に侵害するような事情は認められないことから、本件被保全権利は一応認められる。

3 保全の必要性について

  前記認定事実によると、両親が現在入居している施設に入居するに当たり債務者が関与していること、債務者が債権者に両親に入居している施設名を明らかにしないための措置をとったこと、債権者が両親との面会に関連して、家庭裁判所に親族間の紛争調整調停を申し立てる方法をとってもなお、債務者は家庭裁判所調査官に対しても両親の所在を明らかにせず、調停への出頭を拒否したこと、本件審尋期日においても、債務者は、債権者と両親が面会することについて協力しない旨の意思を示したことが認められる。

  これらの事情を総合すると、債務者の意向が両親の入居している施設等の行為に影響し、債権者が現在両親に面会できない状態にあるものといえる。また、債務者の従前からの態度を考慮すると、上記の状況が改善する可能性は乏しいものといえ、今後も、債務者の妨害行為により債権者の面会交流する権利が侵害されるおそれがあるものといえる。

  なお、債務者は、両親の意向を尊重しているだけで、債務者が債権者と両親との面会を妨害している事実はないなどと主張するが、前記のとおり、債務者の行為が、債権者が両親と面会できない状況の作出に影響していることは否定できない。

  以上によると、債権者が両親に面会することにつき、債務者の妨害を予防することが必要であることから、本件保全の必要性も認められる。

4 結論

  よって、本件仮処分命令申立ては理由があるから、これを認容した原決定を認可することとし、主文のとおり決定する。

第3民事部

 (裁判官 宮澤睦子)

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